“外”から来て、“中”の人になる―副業人材にしかできない「問題解決」(後編)

前回(前編)は、「問題解決」のド定番フレームワークを紹介しました。

あるべき姿と現状の差=問題を見つけたら、特に何が問題なのか、焦点を絞っていく。原因を深掘りして、それを解消するための打ち手を考える。そして実行する―。

今回(後編)は、このシンプルで汎用的なフレームワークをつかって、スモールウィンにつながる副業人材の特徴、とりわけ仕事への向きあい方(関わり方)について考えてみます。

仕事の依頼主(企業)にとっては、もともと“外から来た人”であり、同時に、一緒にゴールをめざす“中の人”でもある副業人材。“外から来た人”だからこそ持っている客観的な視点で「問題」を再整理する。そのうえで、“中の人”=当事者の目線で打ち手を選び、意思を込めて実行する。その過程で、自分がどんどん手を動かす―。

これが、スモールウィンを重ねている副業人材の特徴です。(仮説)

※スモールウィン・・・地域企業が抱える課題に副業人材が向き合い、「小さくても具体的な成果」を出すこと。それがお互いの信頼のベースをつくり、「次の仕事」が生まれ、持続的な関係につながっていくとJOINSは考えています。

 

“外から来た人”モード|(1)あるべき姿の言語化から(6)解決策の提案まで

問題の近くにいる人ほど見えなくなる、全体像と出発点

誰よりも真剣に、問題に向き合っているからこそ

日頃から問題(と思われること)の近くにいる人ほど、問題を遠くから眺めた時の風景(問題の全体像、周囲の変化)が見えなくなっていくことがあります。

その問題を解決することが自分事になっている人ほど、全力で問題の深掘りを進めていくうちに、どの道を走ってきたのか、もともと何をしたかったのか(問題の出発点)、だんだん分からなくなってくることもあります。

しかし、想いを持って、真剣にその問題と向き合っている場合、それは仕方のないことです。

周囲からのフィードバックが不足気味になることも

誰よりも時間と労力をかけてその問題に向き合っていると、その様子や行動が周囲にも伝わります。「誰よりもその問題について理解している人」というイメージを持たれ始め、少しずつ、その問題のことはその人に任せておこう(口を出さないでおこう)という雰囲気になってきます。

やがて、「○○はあの人の担当だから」、「○○の議論、ちょっと自分はついていけないな」、「今は忙しくて○○を考える余力がない」など、悪気なく線を引かれてしまうかもしれません。少し残念な気もしますが、組織の中ではよく起きることです。

そうなってくると、問題のオーナーである本人にとって、他者の視点や意見、建設的なフィードバックが不足していきます。

副業人材だから、“外から来た人”として客観的にみる

そこで、副業人材です。

もともと“外から来た人”なので、その会社以外のこと、その地域以外のこと、その他いろいろな風景が視界に入っています。その会社にフルタイムで勤めるメンバーと違って、副業人材は他にも仕事をしているので、異なる業界・企業との付き合いもあるかもしれません。また、一人の消費者・生活者として副業先の会社をみる目線も持っているでしょう。

問題の一番近くにいる人(=仕事の依頼主)の想いや、これまでの経緯などにも耳を傾けながら、

  • 初歩的に 「△△ってどんな意味でしたっけ。そもそも何を得たいのでしたっけ」
  • 俯瞰的に 「この話の全体像はこうで、いま議論しているのはこの部分ですね」
  • 相対的に 「世の中的に○○な動きが増えてますが、私たちがやりたいのは―」

“外から来た人”の感覚を活かして、客観的に論点に関わっていくことで、「問題」の全体像や出発点を正しく捉えなおす助けになります。

“外から来た人”モードが、問いを設定しなおす助けになる

これから取り組もうとしていること(仕事)が、どこかしっくりきていない。これで本当に問題を解決できるのか、なんとなく腹落ちしていない。そんな時は、問題解決のフレームワークに沿って思考のプロセスをさかのぼり、点検してみる必要があります。

(1)あるべき姿と(2)現状の差=(3)問題を見つけたら、(4)特に何が問題なのか、焦点を絞っていく。そして(5)原因を追究して、それを解消するための(6)打ち手を考える。そして実行する―。(1)~(6)のステップのうち、曖昧になっているところがないか、言語化しきれていないところはないか、広く可能性を探らないまま「ここが急所だ!」と決め打ちしているところはないか―。

ここに、中立で客観的な副業人材の意見やフィードバックが加わると、もともと問題だと思っていたことが、実は問題ではなく、本当に解決したい(すべき)問題はこっちのほうだった、と気づくことも珍しくありません。

問いを正しく設定しなおして、スッキリした気持ちで仕事をスタートするために、副業人材の“外から来た人”モードが力を発揮するのです。

 

“中の人”モード|(6)解決策に意思を込める、一緒に手足を動かす

“外の人”が手伝えるのは問題の整理、解決策の提案まで

“外から来た人”モードだけなら、副業人材でなくても出来ます。外部の知見を活用したいなら、その道のプロと言われる人たちの力を借りるほうがむしろ合理的な場合もあります。経営コンサルタントや弁護士などのパートナー、社外取締役など。

ただし、彼ら・彼女らは、専門家または経営者という立場ゆえに、実際の仕事の現場とは一定の距離が置かれるので、現実的には、問題解決を直接担う(自ら手足を動かす)ことは稀でしょう。(そういう意味では、“外から来た人”というより“外の人”と考えたほうがよいかもしれません)

また多くの場合、“外の人”が手伝えるのは「問題の整理、解決策の提案」までです。しかし、地域企業(特に中小企業)は、解決策という「アイデア」が手に入っても、それを実行する「担い手」が足りなくて困っています。

副業人材だから、“中の人”として問題解決の担い手になる

地域企業の経営者に話を聴くと、過去、社外のコンサルタント等の力も借りながら「おそらくこのあたりが問題で、解決策はきっとこんなイメージだろう」というところまでは来たものの、実際にそれを実行できるノウハウや人材が社内に不足していて、前に進めずにいる、という声をよく聞きます。

副業人材という選択肢に行き着いた地域企業は、問題の当事者として一緒に汗をかいてくれる(自分から手足を動かして問題解決を前に進めてくれる)“中の人”としての参画を期待しています。

JOINSの事例でも、

  • 自社の事情や想い、目指す方向を理解してくれていると感じた
  • 良い意味で、プロっぽくない(地に足のついた話ができる)
  • 現場に入りこんで、自社メンバーと一緒に取り組んでくれるイメージがわいた

などの理由で選ばれている副業人材が少なくありません。

コンサルタントよりも、もう一つ踏み込んで、直接、解決策の実行まで担う。下請け業者と違って、自社の想いも汲みながら、意思を込めて取り組む。一緒に走りながら、一緒に仕様を考えて、また走る。そういう“中の人”になれるのが、副業人材という存在のユニークさであり、強みである。というのが私たちの仮説です。

“中の人”モードで際立つ、副業人材の3つの強み

副業人材だからこそ、“中の人”(=当事者)として問題解決に取り組むことができる。と言い切ったものの、これにはいくつかの要素が混じり合っています。例えば次のようなものです。

  • 副業人材には、“中の人”としての「姿勢」が期待されている、という要素
    • コンサルタントや下請け業者など、“外の人”には求めにくい「オーナーシップ」「他人事でない」「帰属意識」などの姿勢(スタンス、気概のようなもの)が期待されている。
  • 副業人材が、“中の人”として「動きやすい立場」に置かれる、という要素
    • 副業先の会社で実際に働く人たちと直接(ざっくばらんに)会話をしたり、その仕事の現場に入って状況を観察したり、モノに触れたりしたい時、“外の人”よりも動きやすい。
  • 副業人材は、“中の人”として自分がやりきれる「現実的なプラン」を描ける、という要素
    • 過去、別の仕事で似た問題を扱った経験から、理想と現実を知っている。“中の人”として自分がやりきることを念頭に、リアリティ(手触り感)を重視したアクションプランを描くことができる。

どの要素が強く表れるか(求められるか)は、仕事の依頼主のスタンスや、仕事の内容、その過程・場面によって変化します。ここで挙げた以外にも、他の要素(強み)が見つかるかもしれません。

いずれにしてもこのように考えてみると、“外の人”にはない、副業人材のユニークさが際立ちます。

 

“外”と“中”、2つの視点で問題解決を担えるのが副業人材の強み

今回は、問題解決のフレームワークに沿って、副業人材ならではの価値が発揮されるポイントに着目してみました。

“外から来た人”モードで客観的に問題を捉え、解決策を探る。“中の人”モードで、解決策の選択に意思を込めて、リアリティのある段取りを組み、実行する。問題解決のステップ(1)~(6)のうち、特にどの部分で、どのような関わり方を副業人材に期待しているのか―

企業のニーズは様々なので、契約前の面談やキックオフミーティング等の場で丁寧に確認しなければなりませんが、双方で合意された役割に応じて、“外”と“中”、両方の視点を使い分けながら取り組めるのが、副業人材の強みです。

事業継続への危機感、業績目標達成への責任感、ビジョン実現への使命感など、強い感情を伴って仕事に向き合っている人ほど(経営者、事業責任者など、“中”のさらに“中”=“芯”にいる人ほど)、組織の問題=自己の問題と重ねて考え込み、孤立してしまう危険性があります。そのような人には、“外”から来た仲間が助けになります。

やるべきことはわかった、あとはやるだけ。あとはやるだけなんだけれど、やり方がわからない。やり方もわかったけれど、それをやりきれる人がいない―。そのような組織には、“中”に入って一緒に汗をかける仲間が必要です。

“外から来た人”として道を整えて、“中の人”として一緒に走りきる。スモールウィンにつながる副業人材は、その両輪というか、バランスの良さを持っているように感じます。

(イラスト|freepik.com

 

 シリーズ  スモールウィンにつながる副業人材の特徴
【スモールウィン】地域企業が抱える課題に副業人材が向き合い、「小さくても具体的な成果」を出すこと。それがお互いの信頼のベースをつくり、「次の仕事」が生まれ、持続的な関係につながっていくとJOINSは考えています。

投稿者プロフィール

岸 秀一朗
岸 秀一朗
パイオニア→三菱総合研究所→現在はソニーグループで組織開発/人材開発に従事、シニアマネジャー。2020年から副業でJOINSに参画。“個”として働くことに一歩踏みだす皆さんを全力で応援。DDIファシリテーター、キャリアカウンセラー(CDA)、ワークショップデザイナー。