期待に応える副業人材は、手間を惜しまず「ゴールを握る」(後編)

地域企業が抱える課題に副業人材が向き合い、小さくても具体的な成果(スモールウィン)を得られると、それがお互いの信頼のベースをつくり、「次の仕事」が生まれ、持続的な関係につながっていきます。

ゴールを握る・前編では、スモールウィンに結びつく副業人材には「(仕事の)ゴールを握る」という共通の行動が見られることを紹介しました。では、「ゴールを握る」とは具体的にどのようなプロセスなのか。今回はそのあたりを少し掘り下げてみたいと思います。

 

「握る」の意味は「解像度を上げる」+「合意する」

(1) ゴールの解像度を上げる

ゴール(何を、いつまでに、どのくらい)を具体化します。ゴールに到達した時点の自分たちはどんな姿をしているか、頭の中に映像が浮かぶ粒度まで、「成果」の形を明確にしていきます。その作業をここでは「解像度を上げる」と呼ぶことにします。

解像度高くゴールを握れる副業人材には、次のような姿勢が見られます。

  • 業務内容+その企業のこと・土地のことを知ろうとする(応募の段階で調べる)
  • 企業側の事情や想いを尊重しながら、いつまでに何を実現したいか、具体的な情報を引き出していく
  • 時には“交通整理する”、“要件定義を手伝う”という感覚で、発散と収束に付き添う

その仕事を副業人材に依頼するに至った背景や、その成果を活かして何をしようとしているか。ひいてはその企業が、その土地で、どのような価値を創りたいと考えているか。そんな「文脈」を理解することも、これから取り組む業務の仕様を明確にする(解像度を上げる)ための材料になります。

(2) ゴールを合意する

ゴールイメージの解像度が高まったら、そこを目指すことを「合意」します。合意する際のポイントは2つあります。

  1. 自分と相手が、同じ映像(ゴールに到達した姿)を思い浮かべているか確認する
  2. ゴールの難易度に対する共通理解をもって、「達成水準」と「期限」を約束する

1. 自分と相手が、同じ映像(ゴールに到達した姿)を思い浮かべているか確認する

いくら自分が鮮明にゴールイメージを持っていても、相手が同じイメージを描けていなければ、「握る」ことができません。面談やキックオフミーティング等の場で、相手の言葉をよく聴き、質問なども交えながら、相手が見ている映像(ゴールに到達した姿)を確認しましょう。あわせて、自分に見えている映像も、言葉を尽くして相手に伝えましょう。

やりとりが空中戦(口頭だけで会話が転じていく状態)にならないように、できれば会話の内容を文字や図表に可視化しながら、お互いが同じ映像を思い浮かべていることを確かめ合うことが大切です。

2. ゴールの難易度に対する共通理解をもって、「達成水準」と「期限」を約束する

目指そうとしているゴールは、どれくらい到達難易度の高いものなのか。どのようなスキルを持った人がどのくらいの時間を掛けて到達するのが「ふつう」なのか。「ふつう」はどのくらい予算が必要なのか。「ふつう」に進めていくためには他にどんなリソース(ヒト、モノ、カネ、情報など)が要るのか―。その仕事の領域に詳しい人(経験がある人)とそうでない人では、ふつうにやった場合の「難易度」の捉え方が違って当然です。

そのような場合には、「ふつうにやると、こうなることが多い」という標準パターンを共有することや、「今あるリソースだと、成果が出るまでこれくらいの時間は掛かる」等の会話を通して、その仕事の難易度について共通理解を持つことが必要です。そんな相場観のようなものを確認しあったうえで、具体的に、現実的に、「いつまでに、何を、どのくらい」実行するのか、「達成水準」と「期限」を約束します。

 

なかなか解像度が上がらないときは

(1) 情報源を広げてみる

JOINSの副業では、まず企業の経営者(社長)とのコミュニケーションから始まることが多いですが、例えば、事業部の責任者や現場担当者など、より業務の領域に近い関係者まで接点を広げて、当事者たちの声を聴いてみるのもひとつです。

あるいは直接現地に赴き、その企業(会社の中)や周辺地域の様子を観察して、現場の空気を感じてみるのもよいでしょう。いろいろな角度からの情報が、課題を特定していく材料になるかもしれません。

(2) ゴールを分解してみる

その業務を経て最終的に実現したい状態(ここでは最終ゴールと呼ぶことにします)はおよそイメージできた。では最終ゴールへ行き着くまでにどのようなステップをクリアしていく必要があるか。1つめのステップをクリアした状態とは、どんな成果が出た状態か。2つめは・・・、3つめは・・・。(このような最終ゴールまでの進み方をJOINSでは「ロードマップ」と呼んだりします)

仕事の単位を小さくすることで、求められる成果の解像度が上がりやすくなります。現時点で最終ゴールの解像度を上げにくい時は、まず「1つめのステップをクリアした状態」を最初の(短期的な)ゴールとして握るのもよいでしょう。

(3) あえて少し動いてみる

ある企業の「人事制度の構築」を、副業人材が担うことになりました。その企業にとっては経験のない仕事だったので、「正解」が分からず、ゴールイメージも描きにくい状況でした。そこで副業人材がとったアクションは、まず新制度の「たたき台」をつくり、それを携えて、その企業の役員や社員と対話を重ねることでした。その過程で出てくる「○○な制度ならわかりやすい」「○○な働き方ができるのは嬉しい」などの反応を手がかりにしながら、最終ゴールやロードマップを更新していきました。

「たたき台」をもとに議論してみたら、具体的なフィードバックをもらえて、仮説検証が進み、進むべき方向性が見えてきた―。皆さんの中にもそんな経験をもつ方は多いのではないでしょうか。

 

走りながら変わることもある、一緒にアップデートしていく感覚で

しつこいですが、副業でスモールウィンを得るために大切なことは、「ゴールを握る」ことです。仕事にとりかかる前に、最終ゴールとロードマップの解像度を上げて、仕事の依頼主(企業)としっかり合意しましょう。

それでも実際には、順調に行かないことも当然あります。むしろ想定通りに行かないことのほうが多いくらいです。よくよく話を聴いてみたらこんな事実が判明した、少し動いてみたらこんな出来事が起きた、なんてことも後から出てくるかもしれません。ロードマップの1つめのステップをクリアしたところで、「この進み方、思っていたのとちょっと違うかも」と気づくケースもあるでしょう。

それでも、想定外のことを顕在化できたこと、「ちょっと違うかも」に気づけたことは、最終ゴールやロードマップをより筋の良いものに更新する貴重な材料になります。企業にとっても副業人材にとっても価値のある経験だと言えるはずです。

大切なのは、

  • そのような進捗を、タイムリーに共有すること
  • 柔軟にロードマップを調整して、合意しなおすこと
  • そうなる可能性がある旨を、予めお互いに理解しておくこと

そして、そのために必要なコミュニケーションを円滑にとれる関係をつくっておくことです。お互いが頭の中に持っている「最終ゴール」と「ロードマップ」を、常に、一緒に、アップデートしていく感覚を持てるとよいでしょう。

(イラスト|freepik.com

 

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投稿者プロフィール

岸 秀一朗
岸 秀一朗
パイオニア→三菱総合研究所→現在はソニーグループで組織開発/人材開発に従事、シニアマネジャー。2020年から副業でJOINSに参画。“個”として働くことに一歩踏みだす皆さんを全力で応援。DDIファシリテーター、キャリアカウンセラー(CDA)、ワークショップデザイナー。