Withコロナ社会に向けて、自社の変革を加速させたい時に役に立つかもしれないフレームワーク
みなさま、こんにちは。
JOINS猪尾です。
新型コロナの影響に伴い、企業としての短期的なサバイバルのための対応と並行して、with/afterコロナ社会に自社を変革させていこうという考え方や実際の行動が私の周りでも起き始めています。
私自身もその動きには大賛成であり、むしろ、その動きを加速させることに加担したいと考えています。
一方で、「危機の時代は変化を起こすチャンス」というこの文脈は全く持って正しいと思うのですが、言うが易し、実行することは本当に大変です。
今日は、その実行するときに役に立つかもしれないと最近思うようなってきた考え方の枠組み(フレームワーク)をご紹介したいと思います。
このマガジンの「副業・兼業の仕事論」としては直接関係しないかもしれないのですが、前回の記事でも触れたように、「副業・兼業の人材の活かしどころは、自社の変革である」と言うことがわかってきたので、それに関連して、このテーマで書いてみたいと思います。
ご紹介したいのは以下の2つのフレームワークです。
この2つとも、私が考えたものではなく、ピーター・ドラッカーが創設したMBA、ドラッカー・スクールでセルフマネジメントなどの分野を専門に20年近く研究を重ね、エグゼグティブ向けに指導を行ってきたジェレミー ・ハンター氏から教わったものです。
彼のMBA/EMBA向けのプログラムは、全米からエグゼクティブが通う人気の講義と聞いて、私は、2017年の夏に彼が日本で行った特別プログラムに参加し、本当に目から鱗なことばかりでした。
それ以来、日本で行う短期プログラムに毎年数回参加し、日本文化と餃子をこよなく愛する魅力的な人柄にも惹かれ、勝手に人生の師匠と仰いでおり、懇願して、JOINSのアドバイザーも務めてもらっています。
2020年2月に以下の本を日本語でも出版しています。すごくお勧めですのでよろしければぜひご覧ください。
≫ ドラッカー・スクールのセルフマネジメント教室――Transform Your Results
さて、早速、具体的なフレームワークについてご紹介していきたいと思います。以下、書いていくことは、彼のトランジションに関する短期プログラムを2年間受講した上で私なり咀嚼したものとなります。
目次
Transition Map/トランジションマップ
トランジションとは、自分自身の内面、価値観や考え方などを変えることです。(結婚、転職、出産など、外から見てわかることの変化をチェンジと呼び、使い分けています。チェンジがトランジションを引き起こすこともあれば、その逆もある。)
そして、このトランジションをマネジメントするためのベースとなるフレームワークがこのトランジションマップです。
彼がTransionMapと呼ぶこのフレームワークは、トランジションは3つの段階に分けて考えようというものです。
1. このフレームワークが意味すること
彼が TransionMap と呼ぶこのフレームワークは、トランジションは3つの段階に分けて考えようというものです。
- Ending
- Zone of Letting Go and Exploring(手放し、模索する)
- New Beginning
そしてこのフレームワークのポイントは、「何かを変えようとするときは、新しいことを実行する前に、何かを終わらせて、自分の中に余白(スペース)を作ることから始めよう」です。
私はこのフレームワークに激しく腹落ちしたのですが、それには私自身の実体験がありました。
私は前職で事業部長兼取締役を務めていた時に結果を出せていない時期が数年間ありました。当時は、「リーダーとしてこう変わらないといけない」「こうしよう・ああしよう」ともがきながらもも、なかなか結果を出せないずにいました。(今思い出しても、胃のあたりがキューとするくらい、辛い思い出です、、、)
その後、ついにどうにもならなくなり、取締役を退任し、同じ事業部でプレイヤーに降格し業務をつづけました。その当時に、自分の代わりに取締役になった方がまた素晴らしい方(その方も人生の師匠だと勝手に思っています)で、その方の指導の元、エネルギーの余白が生まれ、それを新しいことに注ぐと、これまでとは違うアクションができ、それを色々試すと成果も出るやり方もわかり始め、どんどんそのサイクルが加速し、次々に結果につながりました。自分の中で何かから解き放たれた感覚でした。
前職には12年ほどいたのですが一番自分自身が変われて成長できたのはその退任後の2年間でした。
当時は自分の中で何が起きていたのかはうまく言語化できていなかったのですが、このフレームワークを手にして、自分の経験を当てはめると、自分はなんだかんだ「取締役」という肩書きにしがみついていたことがよくわかりました。そして、その「会社の取締役という肩書きをもつことを自分の誇りにすること」を手放したことが、トラジションを次に進める鍵だったということが分かりました。
以前は、自分にとってかつては自信や安心の根源となっていた何かを手放すことは恐怖や不安しかなかったのですが、今は、手放すことで何かを得られることがクリアに頭の中で整理されているので、その恐怖と共にワクワクの感情を感じることができるようになり、手放しやすくなった気がします。
2. このフレームワークの使い方
まずは変化のプロセスにおいて自分がどの場所にいるかを可視化することができることです。そして、次のプロセスに進むために何が必要かがわかるようになることです。
彼の講義では、このフレームワークに基づいて以下のような質問に答えることが求められます。
あなたが終わらせたいことは何ですか?
次にいくために、かつてはあなたが大切にしていたことで手放さないといけないと感じていることは何ですか?
特にこの「手放す」ということがトランジションの鍵であり、この質問に何度も向き合い考えて言語化し、解像度が高めていく作業こそが具体的なアクションに繋がると感じています。
そして、この次の段階で役に立つのがもう1つご紹介するフレームワークです。
New Beginningの4分類
次にやるべきことが見えてきているのだけれど、具体的な一歩が踏み出せないという状態はよくあると思います。1つ目のフレームワークの、TransitionMapでいうと、2段階目と3段階目の間、「Zone of Letting Go and Exploring」と「New Beginning」の境界線あたりを行ったりきたり、ウロウロしている状態です。
この状態を打破して具体的な実行をする上で役に立つフレームワークとして教わったことがこれです。
このフレームワークが意味すること
シンプルにいうと、「New Beginningとして踏み出すアクションは、自分にとっても良いことと相手にとっても良いことの重なることにできると、パワフルに前に進むことがあるよ。」という感じです。
このフレームワークの価値を強く感じたのは、以前このマガジンでもご紹介した創業92年、珈琲豆の製造・販売事業を営む神戸市の萩原珈琲の4代目となる萩原代表のこの言葉を聞いた時です。
≫ 苦境でも前に進む 神戸の老舗珈琲卸の決断 「EC拡大で得意先も守る」
実は、同社は10年ほど前からECを行っていましたが、表立ってPRすることはしていませんでした。萩原マネージャーは「卸売業のため、EC事業で消費者と直接つながることは、取引先にどこか遠慮のような気持ちがありました」と打ち明けます。社内でも「萩原珈琲を全面に出すことは、取引先に失礼になる。知る人ぞ知るコーヒーでいい」という考え方があったといいます。
萩原マネージャーは「ECを広げて多くの人に知ってもらい、『あの喫茶店に行けば、萩原珈琲のコーヒーが飲める』となれば、自社だけではなく、お得意さんも守ることになる。筋の通った事業に育てたい」と語ります。ECに力を入れてもこれまでの得意先が最優先であることは変わらず、サイト上に取引先である喫茶店の情報を掲載する計画です。
同社に事業は珈琲豆の生豆を仕入れ、自社で焙煎し、その珈琲豆を全国のカフェ・喫茶店など約1,000箇所に卸す事業が売上のほとんどを占めます。その取引先構築は3代目である先代が成し遂げました。しかし、卸先であるカフェのオーナーの高齢化などに伴い卸先の減少が目立ち始め、4代目である萩原代表が個人向けのECを遠慮しながら始めつつ、アクセルを踏めたのは、EC強化と既存取引先のメリットが重なる「大義」を手にした時でした。
これを先ほどのフレームワークに落とし込むとこんな感じになるかと思います。
TransitionMapでいう、「Status OK」の状態とは多くは上記の4にいる状態かと思います。それが時間の経過し、環境の変化と共に、多くは1の状態に移り、このままではまずい、何かを変えないといけないという状態となります。これが「Ending」にあたります。
そこで今回のように、全国のお客様に自社の商品を届けたいと自分たちが本来やりたいことに立ち返るなどして、自社でもECサイトを構築して直接個人のお客様に販売しようという考えに至ります。1から3に移った状態です。一方で、これまでお世話になった既存取引先への遠慮が生まれ、自社だけがメリットのあるアクションは取りづらい。どうしたものかと模索が続きます。TransitionMapでいうと「Zone of Letting Go and Exploring」です。
そして、同社の場合、既存取引先への送客を行うECサイト構築は、自社と他社にとって良いことが重なる4へ進めたことで、「New Beginning」に進んだ状態に至ったと解釈できます。
私も自分個人のことでも似た経験があり、このフレームワークを教わった時に思い出した言葉はこれです。
早く行きたいなら一人で行け、遠くへ行きたいならみんなで行け(詳細の出典は知らないのですがアフリカのことわざだと聞いています)
人は自分のためだけのエネルギーは弱い。強く、長く続くエネルギーを生み出すのは、自分と誰かのための両方が重なることをやれる時なんだということなんだと腹落ちしました。
このフレームワークの使い方
このフレームワークに基づき、以下のような質問の自らの答えの言語化を繰り返すことで、次のアクションへの解像度を高めていけることになると思います。
手放したことで自分が可能になったことは何か
可能になったことのなかで、これからも大切にしたい人にとっても価値があることは何か
いかがでしたでしょうか。このフレームワークは少なくとも私にとっては目から鱗でした。ただ、あくまでもフレームワークなので、効果的な筋トレの方法を教わった感覚と近くて、それを知っただけでは筋肉はつかないです。実際に筋肉を付けたければその方法でひたすら実行するしかなく、やりながら、より効果的な方法に研ぎ澄まされていく感じだと思っています。
自分をマネジメントできなければ人をマネジメントすることなどできない
実は、トランジションを進めるためのジェレミーのこの講義は、企業の変革としてではなく、個人の変革にフォーカスして行われます。
それは、ジェレミーの師匠であるドラッカーの「自分を管理できなければ人を管理することなどできない」というビジネスマネジメントに関する教えを原点にしているからです。
そして、個人のトランジションのノウハウは、組織、社会のトランジションにも繋がるという考え方に基づいています。
私自身、ジェレミーから3年前から学んできたことは、今回の局面で、組織においてもそのまま応用できるなということを実感しています。
自分を変えるとか、自分をマネジメントする、などフワッとしていて、捉え所がなく、さもすると、精神論だったり、スピリチュアルな方向になりがちなことを、ロジカルにこうしてフレームワークで可視化し、再現可能なことにしてくれたことが私にとっては大きな価値があることでした。
ここで書いたことは彼から教わったことのごくごく一部で色々とこぼれ落ちていることや私の解釈が入ってしまって本来の意味が変わってしまっていることもあるかもしれません。
ジェレミーは講義は最近、オンラインでも日本語で受けられるようになったので、ぜひ、ご関心ある方はぜひ、のぞいてみてください。