現場改善の手応えはあった。それでも、業務委託の立場のままでは改善が前に進まなかった――。長野県の精密部品メーカーに週3日の業務委託で入ったSさんは、決裁権のなさという壁にぶつかります。この記事では、外部の一人が「中の人」になり、現場が動き出すまでの流れを、経営者の視点で追います。
Sさんは自動車部品メーカーで生産技術一筋。北米駐在も経験し、最後は部長を務めたのち、定年を待たずに独立しました。独立後はスポットのコンサルティングを70件ほど手がけています。ただ、困りごとに単発で答える形では、自分の提案がうまくいったのかどうかも見えにくい。手応えの持てない状態が続いていたと言います。
もっと踏み込んで、成果が残るところまで関わりたい。そう考えていたときに紹介を受けたのが、長野県の精密部品メーカーでした。
「とにかく生産性を上げてほしい」という社長の依頼に対し、Sさんはいきなり設備投資やロボット導入に走りませんでした。まず現場に張り付き、週に一度みんなで集まって「自分はこう思うが、どう思うか」と問いかけ続けます。最初の3ヶ月は、ほとんど響かない日々でした。
ある日、現場の女性社員が前向きな意見を口にし始めます。空気が変わり始めた瞬間でした。「いけるかもしれない」——Sさんはそこで手応えをつかみます。
ところが、業務委託の契約期間である5ヶ月が終わる頃、おかしなことが起きます。現場の皆が話を聞いてくれるようになったのに、肝心の改善が前に進まない。理由は明確でした。
結局、私はアドバイザーでしかない。決裁権も持っていないし、お金もない。まったく説得力がない。— Sさん
改善案そのものは受け入れられていました。動かなかったのは、Sさんに決裁権と予算がなかったからです。どれだけ知見があっても、責任を取れる立場になければ、意思決定は前に進まない。この壁は、外部のアドバイザーという立場そのものに由来していました。
Sさんは社長に、率直にこう伝えます。「権限がないと進まない」。社長はこれを受け止め、Sさんは製造・加工・品質の3部長を引き受けました。そして現在は、経営にも踏み込むため取締役に就任しています。「いろいろなことにチャレンジしたい」という本人の希望も汲まれ、週3日勤務の取締役という柔軟な形での就任でした。
業務委託という軽い入口で相性と力量を見極め、双方が納得してから登用へ。外部の一人が「責任を取れる立場」になって、初めて現場が動き出しました。これは、コンサル会社などが間に立つ仲介型では構造上たどり着けない、企業と人材が直接契約する直接型ならではの道です。
人柄として信頼できる方で、ぜひ一緒にやってもらいたいという気持ちは、最初から変わりません。
とても積極的に動いてくれていて、自分が管轄する製造部門のメンバーとも面談し、関係づくりを進めてくれています。
正直なところ、これまで社内にいた部長よりも、話しやすい関係性ができていると感じています。
受け入れ企業の経営者(長野県・精密部品メーカー)
※ 上記は、経営者が打ち合わせで語った内容を、公開できる範囲で要旨としてまとめたものです(逐語引用ではありません)。プライバシーに配慮し、社名等は伏せています。
改善は「知見」ではなく「立場」で動く。どれだけ的確な提案でも、決裁権と予算がなければ実行に移らない。責任を取れる立場を託して初めて、現場は動く。
登用は、試してから決められる。業務委託という軽い関わり方で相性と力量を見極め、双方が納得してから社員・役員に迎える。いきなり雇用を決めないぶん、採用の失敗リスクを抑えられる。
「中の人」になれるのは、直接契約だから。仲介型では契約は提供会社とのもので、その人を自社の幺部に迎えることは構造上できない。直接つながって初めて、外部の人が中の人になる道が開ける。
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