導入事例|番頭役という選択肢

専門性はない。でも役に立てた——65歳から経営企画室長になった人定年・再雇用を勤め上げた元・総務部長が、補助金3000万円を守るまで

「自分には際立った専門性はない」。そう語るIさんは、大手企業で総務を中心に幅広い職種を経験したジェネラリストです。それでも、65歳で迎え入れられた長野県の製造業で、確かに役に立っています。専門性ではない何が、中小企業の現場で重宝されるのか。補助金申請の現場から見ていきます。

人材
Iさん(65歳)/元・大手化学メーカー。総務部長などを経て、定年・再雇用まで勤め上げ独立。
受け入れ企業
長野県の製造業(従業員 約40名)
関わり方
経営企画室長(長野県内に常駐)
きっかけ
業務委託で迎え、段階的に関わりを深めて登用

社長一人に、山ほどの仕事が溜まっていた

Iさんが入って、まず直面したのは、社長一人に溜まった膨大な業務でした。行政への各種アンケートや調査の回答、遊休地の売却手続き――現場の社員では拾えず、かといって社長がやるには多すぎる。そんな業務が、いくつも転がっていました。

いわば、経営者と現場のあいだに落ちてしまう仕事です。専門部署があるわけでもなく、誰の担当とも決まっていない。中小企業では、こうした業務がすべて社長のもとに集まりがちです。

補助金3000万円が、飛ぶところだった

なかでも大きかったのが、約8000万円の設備投資のための補助金申請でした。Iさんが提出前に申請書をチェックすると、決算書との数字に大きな不整合が見つかります。

これを出していたら、おそらく役所に受理されなかった。不備があれば、補助金の3000万円が飛んでしまう。— Iさん

専門性がないのに、なぜ役に立てたのか

Iさんは10日ほどかけて、10期分の決算書を一つずつ紐解き、数字を整えて申請を通しました。もし不備のまま提出していれば、受理されず、得られるはずだった補助金を失っていた可能性が高い。それを、提出前の一手間で防いだのです。

補助金申請は、Iさんの専門分野ではありません。では、なぜ役に立てたのか。特定分野の専門家であることよりも、ベースの仕事を確実にこなし、正しさを検証する術を持ち、必要なときに頼れる相手がいる。これは、大手企業で長く幅広い職務を経験した人が自然に備えている力です。

かつての中小企業には「番頭さん」と呼ばれる存在がいました。社長の右腕として、経営と現場のあいだの実務を一手に引き受ける人です。その番頭が高齢化で抜け、若手も育っていない会社は少なくありません。専門性そのものより、確実に手を動かし、社長とも社員とも対話できること。それが、いま中小企業で重宝される力です。

自分が言っていることの正しさを、裏取りする方法を知っている。いざとなれば相談できる人脈もある。— Iさん
受け入れ企業の声

外部から来た人に、社員が身構えてしまうことは少なくありません。だからこそ、慎重に、丁寧に迎えることを大事にしてきました。

信頼を得られるかどうかは、結局、現場で一緒に汗をかけるかどうか。口で指摘するだけの人ではなく、自分で手を動かしてくれる人かどうかを見ています。

一度「一緒にやろう」と決めたら、合わないと切るのではなく、社内みんなで一肌脱いで一緒にやり抜く。最初は周りの評価が低くても、だんだん上がっていけばいい――そう考えています。

受け入れ企業の経営者(長野県・製造業)

※ 上記は、経営者が打ち合わせで示した考えを、公開できる範囲で要旨としてまとめたものです(逐語引用ではありません)。プライバシーに配慮し、社名等は伏せています。

この事例が示すこと

  • 1

    中小企業が求めるのは、専門性より「確実さ」。社長一人に溜まる業務を確実に引き受け、正しさを裏取りでき、社長とも社員とも対話できる。専門スキル以上に、この総合力が現場で効く。

  • 2

    ジェネラリストの経験が、番頭役として活きる。大手で幅広い職種を経験した人は、経営と現場のあいだに落ちる仕事を拾える。高齢化で抜けた「番頭」の穴を、外部のプロが埋められる。

  • 3

    迎え方は、丁寧さが要る。外部の人に社員が身構えるのは自然なこと。合わないと切るのではなく、社内で一緒にやり抜く。その姿勢が、外部人材を「中の人」に変える。

よくある質問

専門性が高くない人でも、本当に経営の役に立つのですか?
役に立ちます。中小企業が求めるのは、特定分野のスペシャリストとは限りません。社長一人に溜まりがちな業務を確実に引き受け、社長とも社員とも対話でき、自ら手を動かせる人材が重宝されます。大手企業で幅広い職種を経験したジェネラリストの経験が、ここで活きます。かつての中小企業の「番頭さん」のような役割です。
外部から来た人を、本当に幹部にしてよいものでしょうか?
いきなり幹部にするのではなく、まず業務委託で一定期間一緒に働き、力量と相性を確かめてから登用するのが現実的です。実際に、定年後に経営企画室長として迎えられた例があります。試用にあたる期間を経るため、いきなり正社員幹部を採るより失敗リスクを抑えられます。
後継者・事業承継の問題とも関係しますか?
関係します。経営の右腕が育つことは、事業承継の土台にもなります。外部のプロ人材が業務委託から幹部へと段階的に関わりを深める過程で、経営を担える人材が社内に根づいていきます。M&Aや顧問契約とは異なり、実際に現場で手を動かしながら関係を深められるのが特徴です。
地方の会社ですが、常駐してくれる人はいるのでしょうか?
経験豊富な50〜60代のプロ人材の中には、地方企業の現場で経験を活かしたいと考える方が少なくありません。フルリモートではなく現地に通う、あるいは常駐する働き方を前提とした人材を紹介する仕組みがあります。週3日の通いから、移住・常駐まで、関わり方には幅があります。

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